道がつづら折りになって、いよいよ天城峠に近づいたと思うころ、雨足が杉の密林を白
く染めながら、すさまじい早さで麓から私を追って来た。
私は二十歳、高等学校の制帽をかぶり、紺飛白の着物に袴をはき、学生カバンを肩にか
けていた。一人伊豆の旅に出てから四日目のことだった。修善寺温泉に一夜泊まり、湯ヶ
島温泉に二夜泊まり、そして朴歯の高下駄で天城を登って来たのだった。重なり合った山々
や原生林や深い渓谷の秋に見とれながらも、私は一つの期待に胸をときめかして道を急い
でいるのだった。そのうちに大粒の雨が私を打ち始めた。折れ曲がった急な坂道を駆け登
った。ようやく峠の北口の茶屋にたどり着いてほっとすると同時に、私はその入口で立ち
すくんでしまった。あまりに期待がみごとに的中したからである。そこに旅芸人の一行が
休んでいたのだ。
く染めながら、すさまじい早さで麓から私を追って来た。
私は二十歳、高等学校の制帽をかぶり、紺飛白の着物に袴をはき、学生カバンを肩にか
けていた。一人伊豆の旅に出てから四日目のことだった。修善寺温泉に一夜泊まり、湯ヶ
島温泉に二夜泊まり、そして朴歯の高下駄で天城を登って来たのだった。重なり合った山々
や原生林や深い渓谷の秋に見とれながらも、私は一つの期待に胸をときめかして道を急い
でいるのだった。そのうちに大粒の雨が私を打ち始めた。折れ曲がった急な坂道を駆け登
った。ようやく峠の北口の茶屋にたどり着いてほっとすると同時に、私はその入口で立ち
すくんでしまった。あまりに期待がみごとに的中したからである。そこに旅芸人の一行が
休んでいたのだ。